貸主の必要性の主張【立退きの正当事由】

1 正当事由の有無の判断

 建物賃貸借契約の期間が満了しても,「正当事由」(借地借家法第28条)がなければ契約の更新を拒絶できず,貸主は借主に退去してもらうことができません。

 正当事由の有無の判断においては,①自己使用の必要性(建物の使用を必要とする事情),②賃借人が建物を使用する必要性、③建物の賃貸借に関する従前の経緯,④建物の利用状況,⑤建物の現況,⑥財産上の給付等が考慮されます。

 その中で最も重視される事情は,①自己使用の必要性と②賃借人が建物を使用する必要性の比較です。

 貸主が借主に対し明渡しを求める場合,貸主の自己使用の必要性があることを強く印象付ける必要があります。

2 自己使用の必要性の4段階

 自己使用の必要性には,4つの段階があると言われます(笹塚昭次「判例批評・立退料の提供と借家法第1条の2解約申入効果の発生時期」民商51・6・135等)。
 
 A.死活にかかわる段階,B.切実な段階,C.望ましい段階,D.わがままな段階です。

A.死活にかかわる段階とは,対象建物の返還を受けなければ貸主側の経済状態は劣悪化し生計等を維持することもおぼつかない状態,あるいは対象建物を明け渡すことにより借主側は居住・影響の場所を失い一家離散の状況となることが必至であること等,建物を返還することが当事者の生活を崩壊させるような状況に陥る場合です。

B.切実な段階とは,Aの段階ほどではないけれども,居住又は営業上,対象建物の使用を必要とする度合いが切実な場合です。

C.望ましい段階とは,たとえば,貸主にとって,できれば対象建物の返還を受けてより高層の建物に立て替えて土地を有効に活用し収益を増加したい場合です。

D.わがままな段階とは,たとえば,貸主にとって,当面使用する必要はないけれども,とりあえず返還してもらいたい場合です。

3 A.死活にかかわる段階であるとの主張方法

 貸主としては,自己使用の必要性について,A.死活にかかわる段階である,つまり,対象建物の返還を受けなければ貸主側の経済状態は劣悪化し生計等を維持することもおぼつかない状態に陥る事情を主張することで、立退きを圧倒的優位に進めていくことできます。

 かかる事情としては,㋐居住の必要性(老齢・病弱等の事情),㋑営業の必要性,㋒経済的困窮(金融機関への返済状況等)の3つの事情を主張することが考えられます。

 以下において,各事情について,裁判例をご紹介します。

㋐居住の必要性(老齢・病弱等の事情)

 対象建物において,貸主又は貸主の家族や従業員等,貸主と密接な関係がある第三者の居住の必要性について主張します。

・貸主は高齢かつ身体の不調により,一人暮らしが不安となっていたところ,次男家族と同居して老後の面倒を見てもらうために,対象建物を利用する必要性を理由として解約申入れを行い,同解約申入れが認められました(東京地判平成21・3・12)。

 

㋑営業の必要性

 対象建物において貸主自らが営業する必要性も積極的に考慮される要因です。経済的困窮等の事情が重なると,死活問題であるとさらに認定される方向に働きます。

・貸主は獣医医院の開業を検討していたところ,動物を扱うため,対象建物よりほかの場所で開業するのは事実上無理であるという状況の下で,正当事由が肯定されました(東京地判昭和55・8・15)。

 

㋒経済的困窮(金融機関への返済状況等)

・対象建物の2,3階を賃借していた貸主は,賃貸借上のトラブルから対象建物1棟全てを買い取ったが,買取代金の融資の返済に窮していたところ,対象建物1棟を改築して貸ビルにして収入の道を確保する必要があるとして,対象建物1階一部においてパチンコ営業をする借主に対する明渡請求が認められました(東京高判昭和60・4・19)。

4 C.望ましい段階に過ぎない場合の主張方法

 貸主側の自己使用の必要性について,A.死活にかかわる段階とまで言えない場合でも,都心部の不動産であれば,土地の高度利用という観点で主張をして受け入れられるケースもあります。

 土地の高度利用とは,土地は全体としての物理的供給量が限られているので,大都市圏の根強いオフィス需要や潜在的な住宅需要を満たすためには,適正かつ合理的な高度利用が必要であるという考え方です。要するに,都心部の土地の上にある木造築古物件などは,より有効に活用されるために再開発に供されるべきという考え方で、裁判所にも認められています。土地の高度利用については、借地借家法28条の正当事由の例示にありませんが、積極的に主張していくべきです。

・対象建物に隣接して広大な土地を有する貸主が,対象建物と一体利用のうえ高層建物を建築し土地を有効利用する必要があるとして,対象建物において薬局を経営し,居住する借主に対して,一定の立退料の提供により正当事由があると認められました(大阪地判昭和63・10・31)。

5 結び

 貸主としては,貸主自身に使用の必要性があることを強く印象付ける必要がありますが,自己使用の必要性については,貸主と借主の必要性を比較考量した上で,判断がなされます。

 そのため,貸主は,借主の自己使用の必要性を排斥する事情も主張する必要があります。

 借主の自己使用の必要性を排斥する主張方法については,こちらの頁にてご説明いたします。