賃借人側の不誠実な態度等は、正当事由の判断に影響するか?

Q 賃借人側の不誠実な態度等は、正当事由の判断に影響するか?

A 信頼関係が喪失された場合、家主にとって極めて有利な要素となる。

 賃貸借契約期間中における不信行為は、正当事由の付随的判断要素(「賃貸借に関する従前の経過」)となります。例えば、賃借人の家賃滞納は債務不履行解除の対象となりますが、信頼関係の破壊とまでは言えない場合(賃貸借契約のような当事者間の高度な信頼関係を基礎とする継続的契約においては、当事者間の信頼関係を破壊したといえる程度の債務不履行がなければ、その契約を解除することはできない)、解除原因に至らなくとも、正当事由の認定で家主に有利に働きます。

 この賃借人の不信行為を正当事由に考慮する程度には差があり、①賃借人に賃料不払いがあった場合には、賃貸人にかなり有利なファクターとなりますが、②用法違反、使用目的違反や近隣妨害その他の不信行為の場合は、それらの行為の程度が著しい場合のみ正当事由の認容要素となるようです(東京地裁平成4年9月14日判決等)。

 この点、賃借人が家主を罵倒したり、暴力を振るうケースでは、不信行為の程度が著しいとして両者の信頼関係の破壊を認め、正当事由を肯定する判例が多いです(借家人が家主の店頭に来て店内を覗きながら、あるいは店内に一歩踏み入れるなどして、家主を罵倒し続けたとして、家主がこの状態を根絶するには自らが他へ転居するか、本件家屋の賃貸借関係を断つ以外に途はなかったとして解約申入れに正当事由を認めました~東京高裁昭和34年7月21日判決)。

 また、不信行為の程度がそこまで大きくなくとも、家主の自己使用の必要性がある程度強い場合に、これを補完する形で不信行為を正当事由認定の要素としている判例もあります(同一家屋で家主と借家人が同居している事例で、家主の行動を監視してこれを逐一記録し、家主の家族に対して嫌がらせを行ってきた借家人の不信行為を理由に、立退き料なしで正当事由が肯定されました~大阪地裁昭和41年10月28日判決)。私が担当している裁判においても、賃貸人・賃借人双方とも自己使用の必要性が認められる微妙な事案において、賃借人側から家主を徹底的に罵倒する陳述書・準備書面が提出されてきました。もちろん賃借人には代理人弁護士がついているのですが、正当事由のポイントを知らない弁護士が立退き訴訟を担当すると、平気で依頼人である賃借人に不利な書面を出してくるので驚きです。

 賃貸借契約が当事者間の高度な信頼関係を基礎とする継続的契約であることは、通常、賃貸人からの債務不履行解除を制限する法理で使われますが(債務不履行があっても解除できない)、正当事由の認定においては、賃借人の不信行為は正当事由を補完する材料となることを肝に銘じるべきでしょう(正当事由が弱くても認容される)。