明渡しの裁判をやっている最中に、占有者が変わってしまった

訴訟中に占有者が変わってしまった!

占有移転禁止の仮処分

 賃料を滞納する賃借人がいる場合、その賃料滞納者が未払いの賃料を支払わなければ、賃料収入が減ってしまい、実質的な利回りは低くなってしまいます。そして、このような賃借人は「来月まとめて支払う」「親戚に借りて支払う」等の弁解をしてきますが、結局支払われないというケースが多いです。その間、他の賃借人に貸していたら得られたであろう収入は膨れ上がるばかりです(これを逸失利益といいます)。そこで、不動産の利回りを維持するためには、賃料滞納者との契約を解除して早期に退去してもらい、次の入居者を確保することが必要となってきます。

 そのためには、賃料不払いを原因として賃貸借契約を解除し、賃貸借契約の終了に基づき建物の明渡を請求する必要があります。賃借人が任意に明渡しに応じない場合は、賃料滞納者を被告として建物明渡訴訟を提起し、勝訴判決等の債務名義を得て強制執行という手段を採ることになります(債務名義とは、勝訴判決正本や和解調書等の強制執行の要件となる文書のことをいいます。民事執行法22条参照。)。

 ところが、せっかく勝訴判決を得ても強制執行ができない場合があります。訴訟中に建物の占有が第三者に移転してしまった場合です(正確には訴訟係属後口頭弁論終結前に占有が移転した場合)。

 強制執行は、原則として債務名義に当事者として記載された者にしかすることができません(判決の場合は訴訟の被告が当事者として記載されることになります。)。

 そうすると、訴訟中に建物の占有が第三者に移転した場合、債務名義に当事者として記載されない第三者に対して強制執行をすることはできないため、勝訴判決を得ても建物の明け渡しを受けることができません。当該第三者に対して改めて訴訟を提起し、その者が当事者として記載された債務名義を取得しなおす必要があります。

 このように新たに訴訟を提起するには余計な時間や費用をかけることになりますし、その第三者は素性の知れない者ですから、訴訟を提起しようと思ってもそれが誰か特定できない可能性もあります。また、悪質な場合は新たな訴訟を提起しても、さらに占有を移転され、いつまでたっても強制執行ができないという事態になりかねません。

 そこで、不合理な事態を避けるため、民事保全法上の仮処分という制度を利用することが検討されます。訴訟の類型ごとに仮処分の種類が決まっているのですが、今回のような建物明渡請求訴訟の場合、「占有移転禁止の仮処分」という方法を検討することになります。

 占有移転禁止の仮処分とは、執行官が建物を保管し、建物を占有する賃料滞納者に対して、第三者に対する建物の占有移転禁止を命ずるものです。占有移転禁止仮処分は債務者・債権者・執行官の誰に目的物を占有させるかによって3つの類型に分かれるのですが、建物の場合は債務者に占有を許す方法によることが一般的です。

 占有移転禁止の仮処分をしておくと、債務者がこの命令に反して訴訟中に建物の占有を第三者に移転した場合でも、そのまま債務者を被告として債務名義を取得すれば、占有を取得した第三者(非承継の善意占有者及び正当権限者を除く。)に対しても強制執行ができることになり(民事執行法63条)、前述のような不合理な事態を避けることができるのです。

 ただし、仮処分を行うためには裁判所が定めた担保を立てることが必要です(勝訴した場合は、担保を取り戻すことができます。)。

 

 占有移転禁止の仮処分をする場合、一般的な手続きの流れは次のようになります。

①占有移転禁止の仮処分の申立て

②債権者面接

③担保決定

④立担保

⑤仮処分決定の発令

⑥仮処分の執行

 まず、①についてですが、建物明渡請求訴訟の管轄裁判所もしくは建物の所在地を管轄する地方裁判所に対して占有移転禁止仮処分申立書を提出します。この申立書には、被保全権利(本件の場合は賃貸借契約終了に基づく建物明渡請求権)と保全の必要性を記載し、それを疎明するための資料も同時に提出する必要があります。

 申立書を提出すると、②債権者面接に進むことになり、裁判官からの釈明にこたえることになります。これを経ると③担保金の額が決定されます。

 具体的な担保金の額は、目的物の価格又は他に賃貸できないことによって失う利益を基準として、裁判官の自由裁量により決定されます。債務者に占有を許す建物の占有移転禁止の仮処分の場合、住宅の場合は賃料の1~3か月分、店舗の場合は賃料の2~5か月分が担保額となるのが一般的です。

 そして、④担保を立てる必要がありますが、通常は金銭を供託する方法によります。担保を立てると、⑤占有移転禁止仮処分決定が出されることとなります。注意しなければならないのは、仮処分決定が出ればそれで終わりなのではなく、さらに仮処分の執行をしなければ占有移転禁止仮処分の効果を得ることはできません。

 最後に、⑥仮処分を執行するには、建物の所在地を管轄する地方裁判所の執行官に仮処分の執行を申立て、仮処分を執行してもらうことになります。

 

 以上のような手続を経て占有移転禁止の仮処分を行うことになりますが、それが建物の占有が第三者に移転してしまった後であれば意味がありません。そのため、占有移転禁止の仮処分はできるだけ早く行うことが重要です。