債務不履行の場合に賃借人から遅延損害金を取れないか

 ここでは、建物賃貸借契約において、利回りを維持するという視点で、遅延損害金の取り決めについて解説します。

 賃貸住宅経営のご経験がある方であれば、必ずといっていいほど、賃料を滞納する賃借人への対応に苦慮されたことがあると思います。賃料を滞納するという物件の利回りを下げる原因となる賃借人には、できる限り早く退去してもらって、きちんと賃料を支払ってくれる次の入居者を確保したいものです。

 ところが、賃借人を退去させることはそれほど容易なことではありません。

 まず、そもそも賃料の滞納があったからといって、必ずしも部屋の明渡請求が認められるわけではありません。些細な債務不履行で賃貸借契約が解除されてしまうと、賃借人は住まいや営業の拠点を失ってしまうことになり、不公平であることから、賃料の滞納があったとしても、信頼関係を破壊しない特別な事情がある場合には,建物賃貸借契約の解除はできないとされています(最高裁昭和39年7月28日判決)。そして、信頼関係が破壊されているかどうかについては、滞納期間や、滞納した事情などが考慮され、賃料の滞納があっても直ちに明渡しを請求できない場合もあります。

 また、債務不履行解除が認められ、賃借人に明渡しを請求できる場合であっても、賃借人が素直に出ていかなければ、裁判を起こして賃借人を退去させなければならなくなります。この場合には、弁護士に依頼しなければならなくなることもあり、その場合弁護士費用が必要となります。

 さらに、裁判によって明渡請求が認められたにもかかわらず、賃借人がそれでも退去しない場合には、強制執行と呼ばれる賃借人を強制的に退去させる裁判所の手続が必要となり、その場合には前記の弁護士費用とは別に、さらなる弁護士費用が発生することもあります。加えて、強制執行に必要な執行官に対する日当、引っ越し業者や鍵業者、荷物保管業者への支払い等々で、高額な立て替え費用が発生してしまいます(これら費用は債務者へ請求できるものですが、現実問題、回収は難しいでしょう)。

 そこで、以上のような裁判所を通じた手続ではなく、賃料を滞納した場合に発生する遅延損害金と呼ばれるペナルティを最大限に活用することで、任意に退去に応じた方がよいと賃借人に考えさせるようにすることが1つの対策となり得ます。1日でも退去が遅れるとその分の遅延損害金が膨れ上がると考えれば、自主的に早目に出て行こうとする賃借人もいます。

 ここでいう遅延損害金とは、賃料の滞納という債務不履行によって賃貸人に損害が発生した場合に、その後の期間の経過によって生じる損害賠償金のことをいいます。利息のように元金に一定の割合で金額が決められることから、遅延利息と呼ばれることもあります。

 この遅延損害金については、賃貸人と賃借人との間の建物賃貸借契約において遅延損害金条項がない場合であっても、法律で定められた利率による損害賠償金が発生します。これは原則として年5%ですが(民法第404条)、賃貸人が複数物件を賃貸しており、事業として不動産賃貸業を営んでいる場合など、商法が適用されるケースにおいては、年6%となります(商法第514条)。(ただし,平成29年民法改正法(平成29年6月2日より3年以内に施行)においては、法定利率は改正法施行時に年3%に引き下げられます(改正法第404条第2項、現行商法514条は削除)。また、3年ごとに法定利率が見直されます(改正法404条第3項ないし5項)。)。

 この点、遅延損害金を最大限に活用して、より賃借人にプレッシャーをかけるためには、建物賃貸借契約において、遅延損害金の利率をできる限り高く設定しておくべきでしょう。ただし、あまりにも高い利率を定めることは、公序良俗に反し無効(民法第90条)とされる可能性があります。裁判例においては、簡易裁判所の判決ではありますが、年18.25%の遅延損害金利率を有効としたものがあります(東京簡裁平成18年3月24日判決)。

 なお、賃貸人が事業として賃貸住宅経営を営んでおり、個人の賃借人と契約する場合には、消費者契約法の規制があるため、遅延損害金の利率は最高年14.6%に制限されていますので注意が必要です(消費者契約法第9条第2号)。

 一般的な遅延損害金条項は、次のように規定されます。参考にしてください。

(遅延損害金)

第○条 乙(賃借人)は、賃料、共益費その他乙が本契約に基づいて負担する金銭債務の支払いを遅滞したときは、甲(賃貸人)に対し、遅滞の日から支払済みまで、遅滞した金額に対する年14.6パーセントの割合による遅延損害金を支払わなければならない。