災害時も賃料を維持したい

免責条項について

 本ページでは、建物賃貸借契約において、利回りを上げるという視点から、天変地異などの災害時に賃料を確保するための、いわゆる免責条項をどう規定すべきかを検証してみます。

 

 賃貸借契約は一定の期間に渡る契約であることから、その間に、天変地異その他賃借人に帰責性のないような使用不能が生じる可能性があります。このような場合についても賃料を減額せず、さらにはこれらに基づく損害を賃借人負担とすることができれば、利回りは上がるでしょう。

 

 ところが、いついかなる事象による場合でも、一切賃貸人が免責されて、賃料を全額請求できるといった条項を設けると、条項自体が無効と解釈されてしまうリスクもあります。逆に、賃貸人に過失があるということで免責が認められないケースでも、一切免責されないとなると賃貸人に酷な場合もありますし、損害額が多額になる事態もあり得ます。

 

 そこで、免責条項を設定する場合でも、以下の3つの工夫が必須です。

①賃料減額がない場合(賃貸人が完全に免責される場合)を、合理的理由のある場合に限定する

②賃貸人が免責されず、賃借人から損害賠償請求ができる場合でも、賃貸人の過失が軽度である場合には免責されるとするなど、賃貸人の帰責性に応じて規定する

③賃借人から請求できる賠償額に、上限を設ける

 ①について、そもそも賃貸借は、「当事者の一方がある者の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払う」ものとあるとおり(民法第601条)、賃料は使用・収益の対価ですから、使用・収益ができなかった期間については賃料が発生しないのが原則です(新版注釈民法⒂227頁)。改正民法では、その旨条文で明記されました(改正後第611条。ただし、賃借人に帰責事由がない場合に限ります。)。したがって、仮に賃貸マンション・賃貸ビルに自然災害などが発生して、賃借人が(賃借人の責めに帰すことのできない理由で)賃貸物件を使用できない期間が生じると、その分の賃料は(改正民法施行後は何らの請求なく当然に)減額されてしまいます。

 しかし、他方で、賃貸人は賃貸目的物の保存に必要な行為をする権利を有し、また義務を負っています。したがって、賃貸人の行う保存行為は、賃貸人の権利行使でありかつ賃貸借契約上の義務の履行であるといえます。その裏返しとして、賃借人は保存行為について受忍義務を負っています(民法第606条)。だとすれば、賃貸人が権利を行使しかつ義務を履行したことによって、賃貸人において賃借物件を使用させなかったという債務不履行責任が生じることはなく、賃借人が受忍すべき事項について賃料が減額されなくとも不当ではないといえます。そこで、このような場合には賃料は減額されないということを明記しておくことが有益です。

 次に、②について、たとえ、賃貸人の義務の履行である修繕行為によって賃借人に損害が発生した場合でも、賃貸人に過失があった場合は、賃貸人を完全には免責させない方が無難です。ただし、賃貸人の過失が軽微なものにとどまるときには、免責を認めても特約の効力は維持できると考えます。そこで、軽過失に過ぎないときは完全に免責されるとして、賃貸人の帰責性に応じて規定を分けることが考えられます。

 さらに、賃貸人に帰責性がある場合で、かつ賃借人の損害が大きい場合には、高額な損害賠償義務を負担しなければならない恐れがあります。特に、賃貸ビルで、賃貸人がサーバーやパソコン等を設置している場合、これらが毀損されることによる損害は高額に上ることが予想されます(例えば、サーバー内の営業用HPのファイルを消滅させたことにつき1億0600万円の損害賠償請求がされた件において、当該サーバーの管理会社に736万5000円の損害賠償義務を認めた事案として、東京地判平成13年9月28日など。)。そこで、このような場合に、賃貸人に重過失があるときは損害賠償責任が生じ得るとしつつ、さらに③として、損害の賠償をしなければならない場合についても、額の上限を設けておくことで、損害額が予想外に多額に上ることを防ぐことができます。

 以上を前提に、①~③について、以下のような条項として契約書に盛り込むことが考えられます。

(免責条項)

第〇条

1 賃貸人が必要と認める本賃貸物件の修繕・変更、改造、保守作業、並びにそれらに伴う停電・断水等により、賃借人の被った損害に対しては、賃貸人はこれを賠償する義務を負わないものとする。ただし、賃貸人の故意又は過失による損害については、この限りでない。

2 前項により賃借人が本賃貸物件を一時的に使用収益できなくなったとしても、その期間について賃料は減額されないものとする。

3 地震・風水害、火災、停電・漏水事故及び盗難事故等の事由に基づく、本賃貸物件内の動産、造作設備及びサーバー、パソコン等のデータ・情報等の全部又は一部の滅失もしくは破損等により賃借人の被った損害については、賃貸人は、故意又は重過失がない限りこれを賠償する義務を負わないものとする。

4 賃貸人の重過失により、賃借人が前項に定める損害を被った場合、賃借人は、賃貸人に対し、賃料の3ヵ月分相当額を上限として、その損害の賠償を請求することができる。

 なお、個人の賃借人との賃貸借契約については、消費者契約法が適用されることから、賃借人に不利な条項は同法第10条により無効とされ得る範囲が広くなります。したがって、上記の条項についても、必ず有効であるというものではなく、条項の有効性は、あくまでも個別の事案に応じた判断となる点は念頭に置いていただきたいと思います。